「…………こーれは狙ってますよね何かを」
支子さんがファッションの丸眼鏡*1を鼻に押し当てて僕を見た。
「な、何をですか……?」
「陰謀を感じますよー、ええ陰謀ですわたし以外の手による! なーんで、また、わたしとの出先の時に新しい服お披露目しちゃうんですか*2ヒマワリさん?! ベティフラ様が最初って言ったじゃないですか!」
楽譜デザインのストールと低帯電性ニットの組み合わせは今が旬だと学んできたのだが、何かが駄目だったかもしれない。
『--いや、今はあたし居るわよ。ていうかここに着くまでに散々見たけど』
「あっベティフラ様! ヒマワリさんが!」
『--ええ……』
ナビゲーションシステムのベティフラはリアルなため息をついた。
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前話(50話)
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「……コホン。それでですね、こちらのドロイドが搭載機です。分かりますか?」
「はい、Tr系基音信号*3ですね」
「聞こえてますね〜。まあ主作用は音波ではなくて新型センサの起動と通信です。変態機能付き*4なのでいくらか接続部の機構をブラッシュアップしてて待機中もTrが出ちゃうんです」
「例の、休眠種子も検知する異常検知機能ですね」
ドロイドの見た目はおそらく同じだ。センサーの搭載箇所も公開されていない以上分からない。
「『環境団体』の皆さん、また元気な活動を始めたみたいですからねー」
先月から数件、街のコンクリート破損事件がまた起きている。以前のプラスチック粒によるバイオボム*5と手口が似ているため、ゲリラプランナーの仕業とされている。今回はカバーで保護や擬態する必要がなく、コンクリート色に紛れやすい種子が散布されているらしかった。不審人物の報告と破損発見までの間隔が安定しないことなどから、不定期な休眠状態を経て発芽し、成長と共にコンクリートに破損を与えるランダム性の高い植物だと推定されている*6。
「そこで一斉に対策するべく、回り回ってこちらに話が来たわけです」
回り回る過程が分からないが、僕の役割は理解しているつもりだ。
「では、偽装音をランダムに切り替えながら流してください。センサー駆動音が聞こえにくい間だけ指を上げて合図します」
もしセンサーの駆動音に注目する人がいると一斉駆除作戦に気づかれてしまう可能性がある。単なるノイズキャンセリングでは消せない(か、痕跡が聞こえる)ので念のため呼ばれた。
「……はい、終わりです。結構隠せる音ありましたねえ」
「環境に応じて使い分けられるくらいバリエーション確保できてると良いんですけど」
「いい感じじゃないですか? ダメでも第二案揃えてまた呼ばれるだけですよ」
「そうですか」
多分、僕が聞き分けるのは耳だけの問題ではないと思う。意識していないが、駆動音の振動を身体で電気的に感じている。だから機械音が特別聞き取りやすいしノイズキャンセリングで完全に誤魔化されない。
……ゲリラプランナーの中に僕と同じ体質の人はそうそう居ないだろうけれど、「念のため」だ。
居なければいいと思う。
知った事ではないだろうけれど、僕は、今の僕の身体の使い方の方が好きだ。
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次話
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*1:度の入っていない、いわゆる伊達
*2:26話
*3:自然環境ではあまり生じないという以外は特に特徴のない音だ。もっとも、意味のある基音群など存在しない
*4:専門家に驚きを与える程の高性能・新機能や最適化を可能とする技術を「変態的」と呼ぶ文化は現存している。公共の場であまり発されないので表現倫理に未だ問われていないか、問われたとしても何度でも復活しているか、だ。いち研究者としては後者だろうと思う
*5:4話〜。正式名称、特定禁止シードボム。事件のせいで少し放置物への法令が厳しくなった
*6:高度な遺伝子組換えの産物だ。白藤さんといい、学会へ現れることのない隠れた技術者は多いのかもしれない。それを単純に憂うのも違うだろうか