山の端さっど

小説、仮想世界日記、雑談(端の陽の風)

我がモノ電子歌姫の「外の人」53

「今年は昼ウィン*1だー! がおー!」
「「「ガオー!」」」「ぐるる……」「わん!」
「にゃお!」
「「ニャオー!」」「ミャオ!」「「にゃん!」」
「コケコッコー」
「cock-a-doodle-doo!!!!!*2
「妖精の鳴き声は?」
『--え? え、無いわよ』
「点呼よーし! Trick or Treat! 変則ブレーメン隊出発ー*3!」

 ベティフラサポートメンバーのハロウィン集会、今年のコンセプトは動物の仮装。ただし妖精は動物に含めるらしい。鳴きそびれた僕とベティフラはそっと最後尾に回り込もうとして、すぐにメンバーに取り囲まれた。

「……ガー*4


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前話(52話)
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 ストリートのあちこちに様々なペンのマークが表示されている。羽ペンやインクをつけた指のアイコン、巧妙に隠されたものまで。意味は全て同じだ。

『芸術の秋をホログラムアートで埋め尽くせ!』

 いわゆる「インクトーバー*5」イベントだ。画材は様々、キャンバスは街全体。最も多いホログラムインク*6は変形させたり宙に浮かせたり、イベントらしい空気を作り出す。

「今朝皆で情報寄せ合ったんですけど、狙い目はヒルズの『スイミー*7チャレンジ』ですよ!」

 黄色のレースを背中の毛のように効果的に纏った支子さんが言う。名前だけでイベントの内容は何となく分かるし、遠目にもかなり見えた。……アーティストの手による赤い魚と、大小もデザインも様々な黒い魚の群れが高台施設に浮いている。魚の輪郭では無い。

「……なんか大きな角とか生えてないっすか」
「皆好き勝手描き足していったんでしょうね……」
「オーラが渦巻いてる*8?」

 去年よりはこの空気に慣れた気がする。僕は左耳のイヤリングに軽くぶつけてベティフラと乾杯してから林檎飴を口にした。……外見からは林檎にしか見えないが、中身はオレンジだ。小さな妖精の仮装をしたベティフラが僕を見て笑った。



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次話
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*1:ハロウィンの昼イベントを楽しむこと

*2:ニワトリは1名

*3:「何でブレーメン?」「さあ?」「ニワトリのせいでしょ」「鶏に持ってかれた……」「cock-a-doodle-doo!!!」「猛抗議」「ユニコーンも同罪」「コメディになっちゃったりしましたね?」「人生は喜劇〜」「そういう話してない」「はい、ここでクイズ。妖精含めて動物はこのチームに15匹。動物の種類は猫・犬・妖精・鶏・カラス・ユニコーン。足の数は30本。さてヒマワリさんの仮装した動物は何でしょう?」「つるかめ算かと思ったら全員下は人型2本脚じゃん」「妖精もね……」「てか解けます? コレ」

*4:カラス1名が気恥ずかしそうに遅れて鳴いた

*5:10月、Octoberとインクinkのかばん語

*6:媒体ペンや認識デバイスをつけた指の動きを平面的に、あるいは3次元的に認識しホログラムを生成するシステム。案外リソース消費の大きい技術だったため、街全体に描き放題なんてイベントが開催できるようになったのは最近だ

*7:レオ・レオニ、1963

*8:後日、最終的な魚の外形データが公開された。最終日に組織的な有志メンバーによって方向性を揃えられたらしく、案外安定した形だった。魚ではない。命名「竜巻き魚」