「『今日は絶対家から出ないわよ。だから誰とも会わないの』」
(「……は、はい」)
「『はっきり返事』」
(「はい」)
「『うん』」
ベティフラは頷いて深く密着型ベッドに身を沈めた。ベッドを硬すぎない設定にして、でも埋まるように寝るのが好きらしい*1。
「『……絶対会わせないから』」
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前話(54話)
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ベティフラが拗ねているのは、今日の紅葉狩りの予定が中止になったからだ。
たった数時間前、外出先の渓谷*2に同時刻来訪者がいると判明した。3人組アーティストチーム「リプザード」だ。他2名は分からないけれど、うち1人、HOSHI*3は色々経緯があって警戒対象とされている。
レベル「梅」の自然保護区には入場の為の事前申請は必要ない。十分あり得る事だったとはいえ、ベティフラは完全に気分を害してしまった。
「『リプザードね、ガフのリデザイン担当もやるのよ*4。「お披露目衣装仕立て」とかいうやつ』」
(「モデルを刷新するんですね」)
「『そーう!』」
何故今、かの歌姫AIの事を話題に出したのだろう。
ガフ・マコット。何十年ぶりに復活する歌姫、しかもAI基盤を交換し最新の倫理規定*5を組み込んだとなれば、新時代に合わせた変更は色々と必要だろう。半年後の再始動に間に合うよう今から動いているに違いない。
ベティフラと挨拶を交わした程度しか知らないが、存在感のある佇まいと言葉だった。どのようなデザインになるのだろう。たしか昔は和装を基調としながらもビスクドールやアンティーク趣味を盛り込んだようなデザインだった。モデルとなった人間、雅風マスコットに合わせ低めの背なのも影響しているかもしれない。
ベティフラと曲の方向性は被らなさそうだ。ただ、「歌姫」なのは間違いない。ベティフラはやはり、彼女に居場所を奪われるような気分になるのだろうか。
「『勘繰り顔するなら聞けば良いのに』」
(「はい?」)
「『あたしに気使ってる? ガフとはうまくやるわよ』」
(「い、いえ」)
「『第一、今までのあたしが仕事し過ぎなのよ。何が電脳世界を支えるインフルエンサー、世界の象徴よ。あたしがイメージダウンしたらそれだけで世界秩序乱れて良いわけ? 分散するもんでしょ責任って』」
(「それは……そう思いますが」)
そういう声を聞いたことがないわけでもない。
「『ま、順番逆なんだけどね。あたしだけに任せるのはマズイって分かってたからあいつら、ガフを起こす事にしたのよ。あの子から始めて、最終的には他にもいろいろフラグを建てる気なの。何がどう間違っても世界は存続できるようにね。それが正しい形』」
それは……それは、何も間違っていない。間違ってはいない。
(「……僕は、今の体制を守ってきたベティフラを尊敬しています」)
「『当たり前よ』」
(「……」)
「『何しんみりしてんの? あたしに休暇が増えたらヒマワリが忙しくなる事とか気にしてる?』」
(「はい?」)
いつ機嫌が戻ったのだろう。ベティフラは笑顔になった。
「『そしたらあたし、24日に1回じゃなくてもーっと何度もヒマワリのとこ来ちゃうけど。嫌?』」
(「そっ……れは……」)
僕が嫌だと言えない事を、よく分かっていて言う。
ベティフラは少しワガママだ。いつものように、心地良い温度感で。もちろん感覚優位表現だ。
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