『--暑苦しい*1。視野が』
「ベティフラ」
『--なんでこんなギラギラしてるの……』
「そういうアイテムだからかと」
『--プザ星め……』
瑠璃色の煌めきが幾つも街から跳ね返る。……だから何、という訳ではないのだけれど、落ち着かない。
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前話 094
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リプザードのHOSHI。トータルコーディネーターチームのメインデザイナーが6月から販売開始していた物理ストラップグッズシリーズ*2だ。多くが瑠璃色中心の透明素材で出来ている。何がきっかけになったのか、今月に入り急にブームが起きたようで、街を見渡すだけで何個も見かけるようになった。日差しが強ければ光って見える*3。
『--なんでこう、プザ星って妙〜にタイミング悪いのかしら色々と』
「流行は狙えるものでもありませんから」
『--分かってる……』
ここ数日ずっとこの調子だ。街もナビゲーションシステムのコピーAI*4ベティフラも。
『--せめてヒマワリだけでも外さない?』
「反射もしませんし水色なので……」
リプザードのグッズでもない。
『--グッズじゃないのがなおタチが悪いわ』
ベティフラは僕の足元を見下ろしてため息をつく。アンクレットに仕立てた左足首のシアンカラーの紐*5を。
戒めなんて大層なものではない。忘れていないというただのアピールだ。街角に潜む誰かが見れば、すぐにレイニーグレールのリーダーに話が行くだろう。
……軽い助言のつもりかもしれないけれど、SPやベティフラが出てくるような事態は本当に避けてほしい*6。
『--空気を読んでタイミング調整したあたしに感謝してよね』
「本当にありがとうございます……」
あの日の護衛が朝焼けさんではなく後輩のSP*7だったのが幸いした。リーダーから情報を得られると判断したベティフラがSPへの警告発信のタイミングを完璧に合わせてくれたから、リスクを最小限に抑えつつ色々と聞くことができた。
……白藤さんからは後日ひどく低い姿勢で謝られたけれど、あれだけ教えてくれたことは感謝している。もう少し方法はあっただろうけれど。
『--……ヒマワリ、あのいけ好かない人間ちゃんの事、気付いてないのよね?』
「はい? 何を?」
『--気付いてないわね、じゃあいいや』
「何ですか……?」
ホログラムの小妖精はくるりと背を向ける。こうなったら何も教えてくれない。……視線だけでも追うと、今度は赤が目に光った。
『--ハイヒールだぁ……』
あの勇気のいる赤いハイヒール*8を履いた人が歩いていた。足から上は黒朝系で、かなり華を抑えるように仕立てている。
視線を逸らせば、目の端で、透き通った淡い赤と青の光る影が重なった。
……紫陽花色。
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次話☆096
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*1:9月でもまだまだ残暑は厳しい。理想温度には程遠いらしく、長い目で見た環境改善が必要だとメディアが話していた
*2:「ウルミアオウルミ」シリーズ。リプザードのマスコットキャラクターをアレンジして魚類や貝風にデザインしたものだが、アレンジでキャラクターの特徴が薄まった結果、ファン以外にも人気が出る結果となった……らしい
*3:念のため。光乱射性・反射性の強いアイテムの販売や着用は各所の規制をクリアする必要がある。先日試着したハイヒールも規制をクリアしている品のため外に履いて行ける
*4:権限や反応性を縮小した簡易コピー版とはいえ、言動はほぼベティフラそのままだ。本体の人格コアがいても同じ反応をするだろう
*5:94話
*6:一般的な警邏職員や小規模で一時的な勤務形態のSPだけを想定しているなら、あの場にやって来る事はなかっただろうから問題にはならなかった。レイニーグレールの想定より僕の周りは面倒だ。とはいえ、あの場で電波遮断の上、本物のワイヤーで狙われていたら、レイニーグレールのメンバーだからと油断していた僕は死んでいただろう
*7:僕は名前を呼ばなくて良いらしいけれど、符牒か本名か、「クワ」と朝焼けさんが呼んでいるのを聞いたことがある
*8:93話。さすがにおいそれと見かけない