『裏街脈簿*1になぞらえてデモ的に犯罪を行う謎の集団がいる』
という噂の熱狂が落ち着くまでこれほどかかるとは誰も予測していなかったらしい。
「くだらんな。気骨の無い輩はそもそも吐哺*2を知らん……」
白藤さんは生き生きと言葉を重ねている。
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前話☆096
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「……というロジックだ。まあ、娯楽としての陰謀論に私が露ほども興味がない事は貴方の知ったる通りだろうが」
「ええ」
「だから、私は適任たり得ないぞ」
「……そうお考えだろうと、僕も思うのですが」
僕だって適任ではない。
「その……リーダーさんは、何と?」
「『お前が一番手が空いてる』」
「ああ……」
こういう有事に僕らは機動力にならない。
「私はともかく、貴方は……まあいい。それで? 何故この妙な飾りを使う必要がある」
白藤さんの手にあるのは、最近流行の透き通る瑠璃色のチャーム。リプザード*3のグッズだ。
「説明が難しいのですが、イメージの増強のためとか。説明のつかない流行に理由を与える、というのが肝要らしいです」
「ネットロアの基本的な流れだな。『瑠璃色』のイメージも共有できる」
「はい……」
「対抗神話か」
そこまで整然とはしていない。
対抗神話。望まない噂の流行を止める事は難しいので、代わりに別のカバーストーリーを広めて噂を書き換えたり論点をずらしてしまう手法だ。今回は……白藤さんには言えないけれど、ずっとヴェルリャに対する対抗神話を流し続けていたことになる。
元々、シードボムのような手段を使っていたのはあちらだ。ベティフラのやり方には疑問もあるけれど、ヴェルリャに悪いとは思わない。
「とりあえずここだ」
路地裏に入り、目立たないように貼られた法令違反ポスターをめくる。小さな穴が空いている壁面にチャームを当てる。
……やっている事が奇行に思えるほどの時間が経ってから、小さな機械音声が流れた。
『--LOG IN ERROR 正確なキーを使用してください』
「……ひとまずこんな細工だ。500ヶ所ほどに設置してあるが、後から仕掛けを作り込む事にしている。ポスターは剥がされていくだろうしな」
「多いですね」
「明日には600になる。楽しみにしていたまえ脳髄労働者」
「……頼もしいです……」
レイニーグレールへの差し入れを持ってきたのは正解だった。
『宇宙第一プラントと第二プラントを繋ぐ秘密通信テレポーターは大戦期にすでに実現したが、現在は政府の特定機密に指定されており深く隠蔽されている。しかしどこかの街の路地裏に、瑠璃色のキーで開く未管理のポーターが遺されている』
……『リセットキー』をアレンジしたのだろう人為的な裏街脈簿だ。まだ名前はついていない。
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次話 098
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