山の端さっど

小説、仮想世界日記、雑談(端の陽の風)

我がモノ電子歌姫の「外の人」24

『--1・4・6・8・10! 幕を上げて! オープニングだよ!』

 画面内に洒落た中年男性と妖精のような歌姫が現れると、音波形が画面下でゆらゆらと揺れた。

『--やあやあベティフラ、去年ぶり。自称父さん、白田寛ロク*1だよ』
『--紹介頂いたとおり、この私、ベティフラよ。何故か待機時間からずっと右下に写ってるライブ映像に爆竹*2なんか見えてなければ、このひとの自称娘と名乗ってあげたかったんだけど』
『--やっぱり聞いてくれるよねえ! 5年前に僕、いっぱい企画展出したり本出したりしたじゃないか。皆も覚えてるかな』
『--誰でも覚えてるわよ、「爆発するのは芸術だけじゃないのかい?」でしょ。嫌な予感がしてきたわ』
『--あの時はまだ音遮断ホワイトボックスのパワーを信じ切れてなくてさ、見た目の映え優先でオープニングステージ組んじゃったんだよね! でもちゃんと勉強したから! 上位資格も取ったし倫理規定も再受講したよ*3!』
『--もう一回受け直しなさい! 絶対倫理理解してないわ! ちょっと人間ちゃん達、デバイスから離れなさい!』
『--大丈夫大丈夫! 人間くん達も爆竹と科学の究極を一緒に体感しよう!』
『--大丈夫じゃないわよ! ああもう音量オフ--』

 次の瞬間、画面を突き破ってホログラムの音波形が上へ高々と飛び跳ねた。



『--……こ、こらーっ!!!』

 衝撃で画面から飛び出したベティフラのホログラムは、鼻先にぶつかりそうなくらい近づいて、弾むように軌道を描いて止まる。逃げた寛ロクを探してキョロキョロし、デバイスの裏へと飛び込む。誰もいない画面にタイトルが降りてきた。

『--人間ちゃん達、1曲聴いて待ってて!』

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前話(23話)
https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_023
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「…………爆発したねー」
「しましたね」
「馬鹿みたいに音出たなあ……」
「ですね*4
「いい音波形だった」
「でしたか」
「わたしはあんまり見ない形だな」
「僕は結構見ます」
「専門の違いだ」
「ですね」
「なんかこのやり取り観てると年末って感じするね」
「しますね……あれ」
「待って、わたし去年も誰かしら後輩と研究室でこれ観てた気がする」
「……はい、僕もそうだった気がします」
「……わたしと君じゃん」
「……来年もよろしくお願いします」
「やだ! 来年は彼氏作って彼氏と観る!」
「あ」
「何も言わないで。去年も同じ事言ってたとか言わないで」
「……」
「……」

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次話
https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_024
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*1:シロタカンロク。ベティフラの設定上の「自称父」で、ベティフラは彼の設定上の「自称娘」

*2:勿論、軽い光と音を空間内に演出するだけの伝統用の無害な電子アイテムではない。未改造品でも規制がかけられる実物だ

*3:AIの資格取得というのは案外一瞬で終わらない。それまでのAI回路や出力行動パターンが不適格とされれば資格利用中だけでも規定に沿う倫理思考パターンを適用するよう求められたり、厳密な優先度規程に沿う電子思考回路を組み込んだプログラムの導入や定期的な最新版へのアップデートを要求されたりする

*4:ベティフラのミュートが間に合った、という演出で実際には音は聞こえなかったのだが、音波形を見ればどれだけの音かは想像がつく