連載
油断していた、ということは無かったと思う。僕も、今日が初めて僕の担当となるSPも。「きょ、今日はよろしくお願いしますっ」 「よろしくお願いします。……あの、そんなにかしこまらずとも」 「はいっ、先輩に泥を塗らないよう*1精進します!」 「は、はい」…
「『周期は変わってないのに、今年初めってだけで普段の倍も接続に時間掛けるのって不思議ね*1……ふーっ』」 歌姫は息をつく。深呼吸だ。新年の冷たい空気が循環する。「『……さ、ヒマワリっ。今年もよろしく』」 (「よ、よろしくお願いします、ベティフラ」…
『自称父ーっ! 白田寛ロクXXX歳*1ーっ!!! Where are you? おーい!』 年の瀬の特番でベティフラが電脳世界をさまよっている。各星のローカル電波に出現したり中継画面に混ざったりしている。ついでに現地の様子をリポートする仕掛けだ。「あっ!!!」 …
灰色さん*1に久しぶりに会ったのは、年末最後のボランティア活動でだった。「やあ、久しぶり。最近急に寒くなったねー。お兄さん毎日これ言ってるけど」 「僕も言ってます」 「あはは」 冬の似合う人だ。冬景色も白い吐息も着こなしてしまう*2。 ___________…
「衝撃。なんすけど先輩」 後輩が急に言葉を切ったので僕はスケッチ*1の手を止めて顔を上げた。「俺好きなんすよ百合」 「……花の?」 「人間関係の」 ____________________ 前話(57話) https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_057 __…
『--ねえ嘘よね、今日が今年最後? まだ半月以上残ってるのに?』 今日は待ち合わせが早い時間になったと思ったら、会って一言目*1がそれだった。「おはようございます、ベティフラ。ええと……」 『--今日、早く検査行くから。終わったら残った時間で遊ぶの』…
『--あらやだ、下駄子ちゃんったら!』 朝、ナビゲーションシステムのベティフラが左耳の近くで声を上げた。「……高下駄子ちるる*1さん、ですか?」 『--そうそ。見てよこれ』 ベティフラはニュース画面を開いた。『高下駄子ちるる、「Ma! Charate*2」メンバ…
「『今日は絶対家から出ないわよ。だから誰とも会わないの』」 (「……は、はい」) 「『はっきり返事』」 (「はい」) 「『うん』」 ベティフラは頷いて深く密着型ベッドに身を沈めた。ベッドを硬すぎない設定にして、でも埋まるように寝るのが好きらしい*1…
『--やっほー、ヒマワリくん。僕だよ、白田寛ロク*1。突然だけど明日ってジムの予定が潰れた日*2だよね? 研究室行く前に僕とフォーチュンドリンク遊びしない?』 ……そうメッセージが来たのは、夜遅くだった。____________________ 前話(53話) https://yaman…
「今年は昼ウィン*1だー! がおー!」 「「「ガオー!」」」「ぐるる……」「わん!」 「にゃお!」 「「ニャオー!」」「ミャオ!」「「にゃん!」」 「コケコッコー」 「cock-a-doodle-doo!!!!!*2」 「妖精の鳴き声は?」 『--え? え、無いわよ』 「点呼よ…
「『……嫌ーだなあ』」 ベティフラがここまで言うのは珍しい。言うまでもなく、全ての感情プログラムを自己制御できる完全AIの彼女に処理演算が手間だと表に出す必要はないからだ。 ____________________ 前話(51話) https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entr…
「…………こーれは狙ってますよね何かを」 支子さんがファッションの丸眼鏡*1を鼻に押し当てて僕を見た。「な、何をですか……?」 「陰謀を感じますよー、ええ陰謀ですわたし以外の手による! なーんで、また、わたしとの出先の時に新しい服お披露目しちゃうんで…
____________________ 前話 https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_049 ____________________ (「あ」) 壁面を引っ掻く音がする。スティックスリップ系*1の音だ。僕の耳には不快では無いけれど、そう感じるのは少数派だろう。 何の…
____________________ 前話 https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_048 ____________________ レイニーグレールの抜け穴*1でもありそうな路地裏にベティフラは滑り込んだ。目的があったわけではない。ただの観光地の喧騒を抜けての休…
『ーーグチャまほ流、魔「法」陣の片付け方!』 『さ、3回目っ』 『あ〜あ、今日は君の散らかし癖のせいでお姉さん酷い目に遭ったな〜。子供でもユニコーンの召喚は大魔法なんだよ?』 『うっ……ごめんなさい……』 『ってわけで今日はやるわよ、地味にど〜しよ…
曇天*1だ。直接的な熱気は和らぐ代わりに湿度はかなり高まる。僕の今日の予定にはあまり関係ないけれど。「『長々と休ませてもらってすみません。ありがとうございます』」 「うんうん、お土産ありがとうねえ。まだ休んでて良かったんだよー」 「『いえ、落…
重力が重い。空気が薄い。道程が途方もない。 そもそも僕の足は、ベティフラに言わせると世界一遅い。ベティフラの荷物を背負っているなら尚更。「はぁっ」 今のは感覚優位表現だったし、それにしても少し過ぎていた。僕が抱える荷物なんて多くはない。 宿泊…
今日は幸い体調がいきなり崩れることはなかった。身体は軽い。この前検査で異常値が出た時に処方された薬のお陰もありそうだ。『--おはよう、ヒマワリ! あたしは2時間前から番組収録中よ! 人間ちゃんの出る企画だから長くなりそう*1』 「そうなんですね………
雨にガラスが当たって弾ける。複雑な曲線構造を滑り降りては機構を揺らす。雨音の中で硬質な音が有機的に繋がり合う。「『綺麗……』」 ベティフラは口に手を当ててぽつりと呟いたまま動かない。 自分の意思では動けないけれど、僕も同じ気分だ。 ____________…
「教授、先日の申請ですが」 「ああ、うんうん、イエスイエス、大丈夫だよー。でも珍しいねえ、きみの入院じゃない長期休暇は」 「……なるべく来れる日は来ます」 「来なくていいよー」____________________ 前話(42話) https://yamanoha334.hatenadiary.jp/e…
____________________ 前話(41話) https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_041 ____________________ 「付き合ってくださってありがとうございます」 「いえ、ヒマワリ様。お誘いいただいて光栄です」 「……大げさですよ」 この距離感に…
文章を書くのが苦手だ。思考言語をそのまま文章として書き起こすことが苦痛で、書き言葉に変換するのも苦手だと思う。論文を書くのにも苦労していたから、思考の流れを雑に文章に書き起こすために大量のショートカットを登録している*1。これを使えば、指で…
____________________ 前話(39話) https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_039 ____________________ アイソレーションポッドに身体を横たえて10分。いつものように緩やかな刺激を受けて検査が始まる。 検査中なので左耳のナビゲーショ…
ころん。四角い鈴がかすかに揺れて鳴る。『--おーい、あたしとヒマワリ〜。30分後に局地的な小雨が降る予報よ。そろそろ屋内に入ったら?』 「『分かってるわよ、あたし。起こすまでスヌーズ』」 『--はーい』 ベティフラは少し面倒そうに左の耳たぶを弾いた…
ころん。鈍い音が鳴る。研究室棟通路で、僕は咄嗟に左耳を押さえた。「し、ら藤*1さん。お久しぶりです」 「……ああ、久しぶりだな」 ____________________ 前話(37話) https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_037 ____________________…
____________________ 前話(36話) https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_036 ____________________「『まさか下駄子*1に声掛けられるなんて』」 ベティフラは頬を膨らませている。知覚的表現だ*2。(「すみません」) 「『あら、謝る…
「ありがとうございます」 いつもの精密検査*1を終えて、僕はさっとカルテを流し見る。 検査名、担当医療ドロイド個体番号*2、患者氏名、年齢、性別。出身地球、宇宙第二プラント*3在住。診断結果良好、前回からの変化はわずかな疲労の蓄積。希望により軽い…
「はぁい、お待たせえ。きみからこんなに早く連絡が来るとは思わなかったねえ、白藤くん」 「私もその気はなかった……ですよ、先輩」 「うんうん、そうだねえ。最近入院したって聞いたけど退院おめでとうねえ。それで、彼のことだよねえ」 「……どうも。今日、…
『--やっほー、ヒマワリ君。僕の事分かるかな』 「え、えと」 『--そしてそして、彼のことは分かるかな?』 分かる、そして分からない。____________________ 前話(33話) https://yamanoha334.hatenadiary.jp/entry/Diva.BettyFlyower_033 _________________…
『--ヒマワリ、富士山登るの来年とかに延期にしましょっか』 「だっ……駄目ですそれは!」 『--わぁ揺れるーぅ』 「すみません」 24日ぶりに会うベティフラは、僕の身体を使っていない。ベティフラステップの続きにチャレンジしていない。人型のドロイドスタ…