山の端さっど

小説、仮想世界日記、雑談(端の陽の風) どの形であれ文章画像等の無断使用を許可いたしません

連載

102☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

「えーっと」 グラスを掲げたサポートスタッフが固まった。「……ベティフラ様、これ何に乾杯するんでしょー?」 「『えーと、色々ひっくるめてあたしのために』」 「ベティフラ様に乾杯!」 グラスが打ち合わされたり宙を舞ったりした*1。それからコットンキ…

DBF101 我がモノ電子歌姫の「外の人」

『……とまあ、眠りの歌姫におかれましては寝耳装置に水*1だったと思いますが』 『--ほーんっとにびっくりよ! メンテ明けにスタッフちゃんから聞いた第一声が「ガフさんのサプライズライブがサプライズになってて!」だったのよ。何?』 『いやあ、起きてた私…

DBF100☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

「なんかシャボン玉飛んでない?」 ガラスのようにシャボン玉が割れた。 合図というほどのものでもない。多分仕掛け自体はタイミングを設定してコントロールされていて、その発動の直前に遊び心で仕掛けたようなものだった。 それからすぐに、青い花火が次々…

DBF099 我がモノ電子歌姫

「こーやってヒザのデバイス叩くんだよ」 かすかな駆動音を伴って、滑らかにパーツが開く。靴底の分厚いブーツだったものが、静かに伸びて、揺れに合わせて瞬時に傾きを変えた。桜さんが周囲に垂れる布を下ろせば、自然な揺れだけが表現される。「……これ、ど…

DBF098 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「見事に膨れたな」 例えば瑠璃色のものが詳細不明のラッキーカラーとして分野種類を問わず売れていたり。 例えば検索で瑠璃に関する語を入れると攻撃を受ける事例があることが解析で気づかれたり。 例えば、第一・第二プラント合わせてもたった2、3名程度の…

DBF097 我がモノ電子歌姫の「外の人」

『裏街脈簿*1になぞらえてデモ的に犯罪を行う謎の集団がいる』 という噂の熱狂が落ち着くまでこれほどかかるとは誰も予測していなかったらしい。「くだらんな。気骨の無い輩はそもそも吐哺*2を知らん……」 白藤さんは生き生きと言葉を重ねている。___________…

DBF096☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

「『お外出たい……』」 (「出ましょうか?」) 「『プザ青ってる*1うちは出たくない……』」 (「……」) 解決策として、ベティフラはバーチャルの電脳空間に人間の身体でログインした。言うまでもなく、僕の身体で。 ____________________ 前話 095 __________…

DBF095 我がモノ電子歌姫の「外の人」

『--暑苦しい*1。視野が』 「ベティフラ」 『--なんでこんなギラギラしてるの……』 「そういうアイテムだからかと」 『--プザ星め……』 瑠璃色の煌めきが幾つも街から跳ね返る。……だから何、という訳ではないのだけれど、落ち着かない。 ____________________ …

DBF094 我がモノ電子歌姫の「外の人」

ドロイド20体、人間2名。地下農園の滞在者表記をもう一度見返す。「……誰かいますか」 この街区の地下農園管理は20体の作業用ドロイドによって行われる。見回りの警邏職員が来るならペアの巡回ドロイドの分が必ず増える。地下農園管理の担当が複数人になった…

DBF092 我がモノ電子歌姫の「外の人」

『--法令違反ビラにご注意を! 一部区域が汚染除去のため通行止めになっています。推奨通行安全ルートをご確認の上お通りください』 「ありがとうございます……あ」 警備ドロイドから電子ビラ情報を受け取る。……一応ポーズとしてドロイドの表示登録番号を確認…

DBF091 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「はぁい注目。明日から2週間、少しずつ研究室に工事をする事になったよー。だからね、ちょっとだけ協力してねえ」 思いがけない教授の言葉に、僕らメンバーは皆しばらく固まった。「明日!? ……からですか?」 「うんうんイエスイエス。急に決まっちゃって…

DBF090☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

疑っていることがある。けれど言わない。 「『……ふーっ』」 とろけるキャンディを口に含み息を吐くと、冷たい煙が青く口から流れ出す。ゆっくり待てば塊になって浮かぶ。さほど煙たくはならない*1。「ベティフラさん見てください! 超デカい人魂出来ましたよ…

DBF089 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「ヴェルリャ。瑠璃*1の名の由来となった語が訛ったものでしょう。オルドフィシュは宇宙第一プラントの開拓初期の名残で、ラピスラズリの別名として用いられる事があります」 比較言語学の知識を蓄える必要のない朝焼けさんからスラスラと語源が出てくるのは…

DBF088 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「ごめんねー、いつもお役所仕事に巻き込んで。疑ってる訳じゃないんだけどさ」 「いえ、理解します」 DZ-ノ26番警邏職員……灰色さんは首をすくめた。僕の隣に座ってくれているけれど、多分立場としては他の警邏職員や専門職員と同様、画面越しに参加していて…

DBF087☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

「『分かってたのよ、どうせヒマワリは行っちゃうって。分かってたから止めなかったの』」 (「……」) 止められていたら灰色さんに電話などしなかっただろう。「『でも電話しなくても調べはしたでしょ? そういうのを首を突っ込むっていうの。撹乱ツール*1な…

DBF086 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「低速トルメツ2翼! よくもそんな通信法出てきましたね。2翼の母体になったトルメツ4面対*1が専門テキストの隅に載ってたら筆者が変態、みたいな知識じゃないですか」 「体系学問的な価値はあまりありませんからね……」 「ヒマワリさんってどーこでアプデし…

DBF085 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「おはようございます! あの」 『速いね。見たんだ』 「見、ました」 『とりあえずは、全部消したかな』 通信先の灰色さん……DZ-ノ26番警邏職員は思ったより落ち着いた声だった。僕の方が、声に身体の動揺が分かるほど動揺している。 見間違いではない。ベテ…

DBF084★我がモノ電子歌姫の「外の人」

「認証お願いします*1」 「確認取れておりますー。スタッフがご案内します」 「あ、ありがとうございます」 ____________________ 前話☆083 ____________________ 『--あら伊達。そのままでもいいのに』 「落ち着かないもので……」 部屋に入り、肌色を変えて…

DBF083☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

「『快晴だ!』」 寝転がって空を見上げなければ、意外と雲が見えない事に気付かない。厳密には周囲の木々で見えない部分もあるけれど、山の開けた野草原には湿気を感じない。汗もすぐに乾いていく*1。(「快晴ですね」) 僕は筋肉痛を覚悟しながら、風の音…

DBF082 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「やあ後輩ズ! どう? 感想は」 ざらり、と音がするのは演出だ。その奥に、切り揃えられた黒ベースの髪がなびく音と、その動きに密着するホログラム表現の電子的ノイズ。細やかに髪に追加された千鳥や桔梗麻の葉模様が静かに個性を主張する。それでいて全体…

DBF081 我がモノ電子歌姫の「外の人」

『……今、あのガフの新曲が聴けるなんて。流石に夢のようですね』 『それだけじゃありませんよ。これはリ・「デビュー曲」ですから』 『うーん、夢ですかね? ちょっと起きてきます』 『起きたら、夢じゃなかったって私にも教えてくださいね。……というわけで…

DBF080☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

「『やれば出来るじゃない』」 レモンティーのカップ*1を傾けてベティフラは満足げだ。薄青とビタミンカラーの糸で織り成した初夏のストールや袖襟がよく合っている。「全方位褒めですね〜、それ」 「『そうよ』」 実際、今は功労者達のパーティーの最中だ。…

DBF079 我がモノ電子歌姫の「外の人」

『--やあヒマワリ君。お養父さん*1だよ』 「……すみません、人違いでは」 『--いや間違いないね! 街巡回型の簡易ドロイドには量産化可能な限りのセンサー類*2が搭載されているわけだけれど、その全てが適正基準値で検出してる』 「……こんばんは、白田さん」 …

DBF078 我がモノ電子歌姫〈ディーヴァ〉の「外の人」

「貴方、面倒事は片付いたのか」 白藤さんは周囲に誰も居なくなる隙を狙って人に話しかけるのが上手い。習得できるものなら欲しいスキルだ。「いえ、まだです。気温変化と対象細胞の活動性の間に強い相関性が生じてしまいました。擬似相関と見ているのですが…

DBF077 我がモノ電子歌姫の「外の人」

『--重ね重ね、大変ご迷惑をお掛けしました……』 人型のドロイドが膝と両手を床につき、深く頭を下げる謝罪のポーズを直接見るのは、初めてだ*1。『--ヒマワリ、こういう時って受け入れなくても良いのよ』 「いえ、謝罪を受け入れます」 『--そして許すかどう…

DBF076☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

「『ヒマワリ最近ボディメイク変えた?』」 (「ご存知の通りです。柔軟性の項目を増やしました」) 「『そうだったっけ……ああ、そうね』」 ____________________ 前話 075 ____________________ ベティフラは身体を折り畳んで倒す。僕の詳しくない領域だが…

DBF075 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「ニュースずっとアレだよね」 「分かる。でどの『アレ』? 一番デカいの?」 「そう、『ガフの再始動延期』。聞きすぎて疲れてきた」 「噂話にも今載ったしね」 「ん? 今うちが話したせいでさらに飽和状態悪化した?」 「自分で言っても自分で聞くしね」 …

DBF074 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「……ヒマワリ様、急報です」 「何でしょう」 朝焼けさん……SPが僕の部屋に滞在していたのはたまたまだった。Xデー以降*1、警戒のため機会が増えていたから完全な偶然とは言い切れない。とにかく、話が早かった。「ガフ・マコットが調整中に自主判断でシャット…

DBF073 我がモノ電子歌姫の「外の人」

「ガフさん、こんばんは」 『--また来てくれてありがとう、ヒマワリ君』 「……」 ガフの「病室」は10日あまりで印象を変えていた。黒向日葵は除かれて、代わりに桜が敷き詰められている。本物と見分けづらいホログラムの花の道を通って近づいた先には、ホログ…

DBF072☆我がモノ電子歌姫の「外の人」

「『改めてお疲れ、あたしのアドバイスを何にも参考にしなかった独自路線のAIメンタルケアラー*1もどきさん?』」 (「ベティフラ」) 「『わざとでしょ』」 仮設ポッドは大木の桜木*2を取り囲む軌道でゆっくりと上へ巡る。一周30分、桜の観覧車だ。 _______…