山の端さっど

小説、仮想世界日記、雑談(端の陽の風)

我がモノ電子歌姫の「外の人」43

「教授、先日の申請ですが」
「ああ、うんうん、イエスエス、大丈夫だよー。でも珍しいねえ、きみの入院じゃない長期休暇は」
「……なるべく来れる日は来ます」
「来なくていいよー」

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前話(42話)
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「あ、お久しぶりです」
「久しぶりー」
「す。先輩。少し休憩しないすか」
「ねーちょっと聞いてやってよ。なんかシステム*1で面白バグ起こしたんだってー」

 最近全員が忙しかったから、ラボ内で直接会うのが久しぶりのメンバーも多い。

「……この条件す。でコア設定を人間に戻すと。少し耐えた後に弾けるっす」
「……よく、こんな条件思いつきましたね……」
「違うんすよ。違うんす。人体の他の部分わりと座るのに邪魔で」
「発言やっばぁ……」
「違うんすよ。ヤベっすね。後輩には大ウケだったんすけど」
「あー白藤氏」

 聞きたかったことが自然と話に出た。

「あの人ツボズレてるからなあ。ニッチな学会のノリ*2で生きてる感じ。いい人なんだけどさ」
「口調がアレすよね。いい人すけど。わざと一拍置く感じ。学会発表で演説始めたら*3僕一票投じに行くっす」
「やめなさい。政治家ってよりなんか宗教っぽい気もするなー」
「宗教?」
「研究対象に殉じてるタイプ。ま、研究者みんなそうだろって言われるとそう。あたしも君らもそう」
「危ない兆候すよ。それ。否定できないすけど」
「いい人だとは思うけどね。真面目だし技術あるし、こっちの話も聞いてくれるし」
「話は通じるんすけどね」

 評価が固まった。

「そういや君が熱烈スカウトしに行ったって聞いたよ。どういう関係?」
「ええと、『スカウト』の時が初対面ですね……」
「教授の無茶振りすか」

 愛想笑いを返すしかない。

「その白藤さんはいつもどちらに?」
「今日来てるよ。どこかの空き部屋。呼んでみたら?」




 人を探し回るにはそこまでラボは広くない。痕跡を残したくないので、直接探しに行った。

「白藤さん。今、少し時間をいただけませんか。僕の研究内容を見ていただきたくて」
「ああ……分かった。今行こう」

 ……ついつい白藤さんの方を見てしまう。メンバーの評価が意識に混ざる。
 いや、そこは今問題にするところではない。完全に2人とも収まったのを確認してから、僕は室内の通信遮断機能をオンにした。研究機密を守ってくれる基礎的な機能*4だ。



『--はい、ヒマワリ君お疲れー。僕だよ。怪しくないおじさんだよ』

「……この機械*5は……」

 僕は頷く。左耳のナビゲーションシステムがきちんと無効化されていることを確認する。

「白田寛ロクさんです」
『--いえーい。アニヒー君、話すのは初めてだねー。アニヒーって呼んでいいかな?』
「帰っていいか?」
『--ヒマワリ君は僕のことロクさんって呼んでね』
「白田さん。白藤さんが困ってますので」
『--そしていずれ「お父さん」って呼んでくれたら』
「白田さん」

 ベティフラに内緒で話をするのに、白田寛ロクの協力は不可欠だ。研究室程度の通信妨害では左耳のシステムにストックされる情報収集を確実には妨げられない。今こうして話をできているのは、白田さん提供の別の妨害システムのおかげだ。ベティフラ側からは、たまたま研究室の妨害システムが強く作用して室内の記録ができなかった、と見えるようにしてある*6。今日がベティフラのメンテ日のため、小さな異変は見逃されるだろうという計算もある。
 しかし、もしかしたら間違いだったかもしれない。

『--ヒマワリ君?! 間違ってないよ!』
「すみません。冗談です」

 僕は白藤さんに向き直る。

「どこから話したら良いか。……白藤さん達に、一生のお願いがあるんです」

 我ながらオールドな言い方だ。とても。本気しか伝わらない。


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次話
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*1:僕らの研究室の教授の作である人体シミュレーターのこと。研究生全員がお世話になっているが、使い方は様々だ

*2:有名所で言えばキャットースト学会、非公式レギュレーションRTA/TAS学会、空飛ぶスパゲティ・モンスター教学会、他。非公式学会ならそれこそいくらでもあるし、教授クラスの人が所属を明言しているものもある。……「ノリ」が分からず気が引けるため、僕は人工亜生物システム系の学会には加わっていない

*3:たまに冗談で演説めいた発表を行う者はいる。全く意味のない「清き一票」を要求する事もあるが、特に意味はないし投票システムも無い。完全なるお遊びだ。リアクションで有効票の投票を意味する絵文字を贈られると、それを「得票数」とするらしい

*4:ただしこのラボは教授が手を加えているので、多少セキュリティが強いかもしれない。多少

*5:見た目は重要ではないが、研究室にはよくあるジャンクパーツの外見をしている

*6:残念ながらこの軽量システムくらいではデータ飛びはたまに起きる事象だ。新時代システムの最新鋭完全AIベティフラでさえ、24日に1度のメンテナンスを要求する